iDeCoしてますか?
以前別の記事で書いたとおり、iDeCoは誰にでもおすすめできる制度ではありません。

iDeCoに向いているのは以下のような人。
・いまお金に余裕がある人
・いま使えるお金を減らしてでも節税したい人
・もらえそうな退職金や年金が少ない人
特に、儲けが出ていて生活に余裕がある個人事業主には、うってつけの制度といえます。
個人事業主は会社勤めをしていないので退職金が存在しないため、自分で退職金を積み立てて、しかも節税ができるのは大きなメリット。
逆に、個人事業主以外にはそこまで強くはおすすめしません。
なにも資産運用をしないよりはマシだけど、ほかの運用でも十分かな・・・という印象。
理由はいろいろありますが、理由のひとつは現在の税金の制度にあります。
今回は、iDeCoに加入する際に注意しておきたい、所得税の退職所得控除と年金控除についてお伝えします。
iDeCoを始める前に知っておきたい、所得税ってどんな税金?
iDeCoは、拠出額が全額所得控除になるということが最大のメリットとされています。
では、そもそも所得って何かをおさらいしておきましょう。

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所得とは、収入(給与明細でいう「額面」)から必要経費などをのぞいた金額のこと。
そして、所得税とは、所得の金額に応じて課税される税金です。
会社に勤めている方であれば、給与所得控除という制度で必要経費が計算され、収入から控除された金額が所得になります。
給与所得控除は、基本的に会社の経理担当がすべて計算してくれたうえで源泉徴収票を作ってくれるため、自分で計算する場面はほとんどないと思いますが、所得制度について説明するためちょっと詳しく書きます。
収入に応じて給与所得控除額の計算方法は異なり、以下のような計算方法になります。
給与収入金額(額面) | 給与所得控除額 |
180万円以下 | 収入金額×40%(最低65万円) |
180万円超〜360万円 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円超〜660万円 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円超〜1000万円 | 収入金額×10%+120万円 |
1000万円以上 | 220万円(上限) |
たとえば年収400万円の人であれば、給与所得額はこんな風に。
400万−134万=266万円(給与所得額)
また、年収700万円なら、給与所得額はこんな風になります。
給与所得額:700万−190万=510万
給与所得控除のほか、不動産収入や農業収入、年金収入などにも所得控除が適用され、所得額が計算されます。
不動産収入を得ている人は多くないでしょうから、ここでは説明は省きます。
また、農業収入についてですが、農家さんは農業者年金基金という、特別な年金制度に加入することができます。
ただ、農業者年金に加入すると、iDeCoに加入することができず、農家でiDeCoに加入する方は非常に少ないため、ここでは説明を省きます。
では、本題である退職所得控除と年金所得控除について見ていきましょう。
退職所得控除の計算方法は?iDeCoの節税効果は?
退職金収入から、退職所得控除を適用したあとの金額が、退職所得になります。
この退職所得を1/2にした金額に、20%(2037年までは20.315%)をかけた数字が、納めるべき税額になります。
つまり、退職所得控除で、退職金収入からいくら控除できるかによって、いくら節税できるかが決まってきます。
退職所得控除の金額は、以下の表のように計算されます。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数(最低80万円) |
20年超 | 70万円×(勤続年数−20年)+800万円 |
少しわかりにくいので、具体的な収入モデルを見てみましょう。
勤続年数38年、退職金2000万円の場合の税金計算
上記のような方の場合の退職所得金額と、納めるべき税額は以下のとおりです。
退職所得控除額が退職金を上回るため、納めるべき税額は0円となります。
また、税額控除額−退職金=60万円が、iDeCoで積み立てたお金を退職金として受け取った場合に全額節税できる上限です。
勤続年数20年、退職金2000万円の場合の税金計算
今度は、退職金の金額は同じで、勤続年数が約半分になった場合のケースを見てみましょう。
納めるべき税額:(2000万円−800万円)×1/2×20%=600万円×20%=120万円
なんと、退職金収入2000万円のうち、120万円が持っていかれてしまいました。
勤続年数が短くなると、退職金から控除される金額が非常に少なくなってしまいます。
では、同じく勤続年数20年、退職金2000万円で、iDeCoの積立額から500万円を受け取るとしたらどうなるか。
退職所得控除額は同じく800万円ですが、納めるべき税額が大きく変わります。
iDeCoで積立をした額を退職金として受け取ったとしても、すでに控除額を使い切っているためにiDeCoによる収入額の10%を税金として持っていかれてしまいました。
つまり、転職をしていて勤続年数があまり長くない人や、そもそもの退職金が多い人であれば、iDeCoがウリにしている退職金控除の税制優遇はほとんど役に立たないことがわかります。
では、退職金控除が使えないなら、年金として受け取る場合はどうなるのか見てみましょう。

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年金控除の計算方法は?iDeCoの節税効果は?
年金を受け取る場合には、年金控除(正式には公的年金等控除)という税制優遇措置を受けることができます。
控除される金額の計算方法は以下のとおり。
受給者年齢 | 年金収入額 | 年金控除額 |
65歳未満 | 130万円未満 | 70万円 |
130万円〜410万円未満 | 年金収入×25%+37.5万円 | |
410万円〜770万円未満 | 年金収入×15%+78.5万円 | |
770万円以上 | 年金収入×5%+155.5万円 | |
65歳以上 | 330万円未満 | 120万円 |
330万円〜410万円未満 | 年金収入×25%+37.5万円 | |
410万円〜770万円未満 | 年金収入×15%+78.5万円 | |
770万円以上 | 年金収入×5%+155.5万円 |
年金控除もけっこうややこしい制度なので、具体的なモデルケースを見てみましょう。
年金制度はかなり複雑だし人によって金額もまったく異なるため、一番シンプル、かつ分かりやすいケースを一つだけ紹介します。
公的年金を65歳から受け取り、60歳から65歳まではiDeCoの積立額を年金として受け取るケース
iDeCoを現行の年金制度を利用する場合で現実的なのは、仕事をリタイヤしてから65歳まで、iDeCoの退職金収入と貯金で食いつないでいくという方法かと思います。
iDeCoのほかに年金収入が無い場合、いくらまでなら年金控除を最大限活用できるでしょう?
上記の表のとおり、65歳未満で年金収入が130万円なら、70万円の年金控除を受けられます。
それに加えて、税額計算には基礎控除というものもあり、所得税の計算には38万円、住民税の計算には33万円の基礎控除が受けられます。
なので、年間およそ103万円までなら、非課税枠を最大限利用できるでしょう。
大雑把な計算ですが、退職金をたくさんもらえる見込みの方でiDeCoに加入したい場合、積立金額が500万円程度までであれば、最大限のメリットを受けることができると思います。
積立金額が500万円以上になる場合でも、当然拠出したときは全額所得控除になっているのでお得ではありますが、年金として受け取るときに課税されてしまうので、結果的には納税を先延ばしにするだけというケースもあり得ます。
なお、お住まいの自治体によって住民税の計算について、若干ですが方法が異なる場合があります。
また、税金の計算には細かいルールがあり、年金以外に収入がある場合や、ほかの税額控除を受ける場合など、計算が複雑すぎてネットで調べて得られる知識では限界があります。
ファイナンシャルプランナーに無料でお金について聞ける相談会が各地で行われているので、より深いことを知りたい場合は、FP相談会に参加してみることをおすすめします。
私も参加したことがありますが、自分では調べてもわからなかった資産運用について、具体例を使って教えてもらえたりと非常に有意義でした。
まとめ。
税金の制度は非常に複雑にできており、iDeCoに関する部分だけでもすべてを把握するのは非常に困難です。
とりあえず現行の制度のままであれば、どなたでも60歳時点で積立額が500万円未満であれば、iDeCoのメリットである掛け金の全額所得控除と、年金所得の全額控除により最大限のメリットを受けることができそうです。
ただし、年金受給年齢を引き上げるという動きもある中で、「iDeCoの受け取り可能時期はどうなるのか?」とか「年金の控除額はずっと変わらないのか?」などの不安もあります。
特に、iDeCoの制度自体は以前からあるのに急に世間的に知られ始めたことに、政府による陰謀論を唱える方もいたりと、わからないことだらけです。
老後食いつなぐために、今使えるお金を減らして資産運用しながら税制優遇を受ける、というのがiDeCoの目的。
個人的には、今使えるお金があるなら自分で株式でも買って運用するのが楽しいと思いますが、プロに運用してもらいながら税制優遇を受けるという選択は堅実ですね。

iDeCoに加入するにせよ、自分が節税できる上限をイメージして運用することが大切です。
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